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路地裏のさんぽにん

第35回 埼玉県春日部市

東武伊勢崎線春日部駅周辺を歩く! 後篇

今回下車したのは、埼玉県春日部市の中心部にある春日部駅。
東武伊勢崎線と東武野田線が乗り入れ、乗降客数は1日約7万人。
市街には国道4号や国道16号が伸び、県東部の交通要衝の地。
江戸時代には日光街道の4番目の宿場「粕壁宿」として賑わい、
昔もいまも人々が行き交う街。桐たんすや麦わら帽子が特産品です。

今回のまちの表情

A.春日部大通りから古利根川まで続く土地に建つ荒物店の蔵 B.丸金の刺身盛り合わせ。左から小袋、レバ、ハツ、タン。絶品! C.古利根川 D.古利根公園橋の麦わら帽子をかぶったブロンズ像。駅周辺では約20ヶ所でブロンズ作品を観られる E.春日部市商工振興センター1階で展示・販売されている麦わら製品。最近は麦わら帽子だけでなく、バッグや小物入れなども作られていて人気 F.舟運の目印となった碇神社の木・イヌグス。右手に古利根川の土手 G.Bien −びあん− とオーナーシェフ H.商店街で目立っている「ふじちゃん」 I.駅西口にあるJAZZ BAR「YELLOW NOTE'S」。700種以上のウイスキー(オールドボトルも豊富)と大型オーディオスピーカーJBLのパラゴン、4344、K2から繰り出される音が圧巻! J. 東口と西口をつなぐ地下通路、通称・壁画トンネル。壁に海の生きものが描かれ、水族館に迷い込んだよう K. 春日部で会った猫 L.春日部市商工振興センターに飾ってある巨大押絵羽子板 M.春日部に1軒だけ残っている氷店。手前の氷は36貫(135キログラム) N.通りの右手奥に蔵あり

おさんぽマップ

さんぽのポイント! (おさんぽマップ 6〜10)

その6 春日部について手っ取り早く知りたいなら

●春日部市郷土資料館
 約3万年前の旧石器時代から人が住んでいるという春日部。市内101ヶ所で縄文時代の遺跡が確認されており、この資料館では約4800年前の縄文中期の竪穴式住居推定模型を展示。縄文人の親子3人が炉で貝を煮て食事の用意をしている様子を再現している。
 ほかにも鎌倉武士・春日部氏、日光街道・粕壁宿など、テーマごとにパネルや模型、ビデオ、体験資料でわかりやすく春日部の歴史を紹介。写真は江戸末期の粕壁宿を推定して再現した模型(1/200)。現在の位置も示され、ふむふむ、ここはこうなっていたんだ……と見入ってしまう。
 2010年3月14日まで企画展「わたしたちのかすかべ 〜くらしのうつりかわり〜」を開催。春日部で約100年前から現在まで実際に使われてきた身近な道具やおもちゃ、写真などの展示がおもしろい。
■048-763-2455
■春日部市粕壁東3-2-15
■9:00〜16:45
■月曜、祝日休(月曜と祝日が重なった場合は火曜も休)
■無料

その7 仲良く寄り添いすぎ(!?)のイチョウと松の木

●秋葉神社の夫婦松
 駅西口ロータリーの交番の脇。そびえ立つイチョウの木をよく見ると、なんと根元部分が松の木と合体! 地上1メートルほどのところから分かれて生育し、ワタシはイチョウ、アナタは松とそれぞれ間違えずにきちんと枝葉を伸ばしている。う〜ん、不思議。
 江戸時代、この地に秋葉神社が祀られ、そのご神木とされていた夫婦松。区画整理で神社は線路沿いを南に約150メートル進んだ場所に移されたが、夫婦松だけ残された。
 秋から冬にかけては、黄色に染まるイチョウと常緑の松のコントラストが目をひく。市指定天然記念物。

その8 春がやってくると通りを紫色に染める市の花

●ふじ通りのフジの花
 東武野田線で1つ隣りの「藤の牛島駅」近くの市内牛島には、弘法大師が手植えしたと言い伝えられる推定樹齢1200年の「牛島の藤」がある。根元の周囲4メートル以上、藤棚の面積600平方メートルの国内最大規模のもので、国特別天然記念物に指定されている。
 そこで、春日部市では市の花をフジとし、春日部駅西口に伸びる「ふじ通り」の両側の歩道に約1キロメートルに渡ってフジを植栽。毎年4月下旬から5月上旬にかけて紫色の花が藤棚に連なり、道を行く人々の目を喜ばせる。4月下旬には「春日部藤まつり」を開催。イベントや模擬店が楽しい。
 写真はふじ通り。

その9 藤色のうどんをつるりとほんのり麗しい気分

●藤うどん
 市の花「フジ」にちなんで、春日部の麺類業生活衛生同業組合が新名物を考案。県産の小麦「あやひかり」に「アヤムラサキイモ」の粉を混ぜて練り上げ、色鮮やかな藤色のうどんを完成させた。天然素材で身体にやさしく、もちっとしたコシの強さが特徴。
 市内約20軒の店がそれぞれ工夫を凝らしながら打っており、駅西口・ふじ通りの近くなら「そば処 巴屋」へ。越後の国・新潟より移築した古民家を店舗にした雰囲気のある店で、土間のテーブル席や立派な柱・梁に囲まれた座敷席で気楽に落ち着いて味わえる。
 写真は巴屋の「藤うどん」。薬味のねぎ、しょうが、うずらの卵をお好みで、つるつるとどうぞ。お土産用「藤うどん」も販売。
そば処 巴屋
■048-761-1431
■春日部市中央1-4-16
■10:30〜20:30
■水曜休
■藤うどん630円、お土産用1袋550円

その10 このお店をおすすめいただき、どうもありがとうございます。

●丸金
 「春日部駅周辺観光どころ・食べ処マップ」の第1弾「焼鳥・焼肉・ホルモン春日部ストリート」では、商店会と商工会議所おすすめの21ヶ所の飲食店を紹介。
 なかでも開業40年の焼きとんの店「丸金」は、「Bien ーびあんー 」のオーナーシェフも超おすすめ。赤ちょうちんを横目にのれんをくぐると、笑顔のご主人と女将さん、お店の方々が温かく迎えてくれる。
 ここで味わいたいのは、豚のタン、ハツ、レバ、小袋、ガツの刺身。キラキラむちむちとしていて、とびきり新鮮であることが一目瞭然。ぱくっといけば、コリコリぷるぷるとした歯ごたえにびっくり。その衝撃のおいしさに驚いたー!
 写真は焼きとん用で、手前から右回りにナンコツ、シロ、タン、レバ、小袋、肉、ガツ、ハツ。こちらもいままで食べていた串焼きはなんだったのだ!? と思わせる食感と味。いや驚いたー!!
■048-754-5470
■春日部市粕壁2-7-7
■17:30〜23:00
■ 日曜・祝日休
■ 刺身盛り合わせ1人前850円、タン焼き1人前3本330円

さんぽを終えて…… 後篇

恵まれた環境によって誕生した伝統産業

 桐たんす、桐箱、押絵羽子板、麦わら製品といった春日部の伝統工芸品。桐たんすと桐箱は江戸時代、日光東照宮造営のため全国から集められた工匠が粕壁宿一帯に繁茂する桐に目をつけて留まり、桐工芸を伝えたことが始まりと言われます。

 桐は木肌が美しく、軽量。防虫、防かびに優れ、火や水にも強いので、桐箱は明治時代になると呉服、雛人形、陶器、盃、鰹節、カステラなどを収納するものとして重宝されました。とくに「ライオン歯磨本舗」が歯磨粉を考案し、容器として使用してからは需要がはね上がったそうです。また、桐たんすは戦後に最盛期を迎え、町のいたるところで木釘を木槌で打つ音がリズミカルに響いていたと言います。

 麦わら製品は明治30年ころから農家が副業として麦のわらで麦わら帽子を作ったことから、押絵羽子板は戦後に東京下町の職人が良質の桐材を求めて移り住んだことから始まり、全国有数の産地となりました。

 これらの産業に従事している人の数は、昔にくらべれば減ったものの、現在も組合に加盟している事業所数は桐たんす12軒、桐箱16軒、押絵羽子板12軒、麦わら製品2軒。駅周辺を歩くだけでも工芸品を並べる店舗や作業場を見つけられ、いまも伝統が受け継がれていることを肌で感じられます。

散歩を楽しくしてくれる昔のものいまのもの

 駅周辺では日光街道・粕壁宿を彷彿とさせる蔵造りの商家や蔵も見つけられます。春日部大通りから古利根川まで間口がせまく奥行きが長い土地には荒物店の土蔵が連なる風景。商家の裏に舟をとめて、荷の積み降ろしをしたのだろうなあ……などと思い描くのが楽しい場所です。

 あ、あそこにも蔵、発見! と歩を進めるうちに見つけたのは、木製の重たそうな扉がある店。「ここは氷店で、この木製扉の奥は冷凍庫。もう何十年も使っているものだよ。春日部で氷店は1軒だけになっちゃったね」と、お店の方。「数年前に駅東口の区画整理が行われたんだ。以前は昔の店や蔵がもっとたくさんあったんだけどね」。

 いえいえ、それでもまだまだ春日部には昔ながらの呉服店、履物店、際物店、米穀店、煎餅店、豆腐店、洋品店、食料品店があります。いまでは珍しくなった駄菓子店、小鳥店、とっても珍しい(?)鉄砲火薬店なども行く先々にひょっこりと現れて、散歩ゴコロをくすぐります。

 それに、築100年以上の“中門造り”の古民家が店舗で、座敷席に飾られている米俵や井戸のつるべがなにやら懐かしい「そば処 巴屋」、開店とともにお客さんが押し寄せる赤ちょうちんの店で、もつ焼きと刺身でビールがク〜ッとたまらない「丸金」などの個性あふれる店も、春日部でしかなかなか出会えないものです。

 じつは「丸金」さんで常連の方々と春日部談義を楽しむうちに盛り上がり、もう一軒! 「春日部にはおもしろい店がいろいろあるんだよ」と、「BOOZE&CAFE COPA」というお店に連れていってもらいました。

 ツタに覆われた隠れ家的な外観で(実際、歩いているときに見かけた小鳥店の目の前にあったのに、お酒が飲める店とは気づかなかった)、店内はアメリカのアンティークグッズやおもちゃが並ぶ遊び心いっぱいのお店──。春日部ブラボー! だれかに教えたくなるようなお店がざっくざっくとあります。

 いまも歴史や伝統が息づいているし、ビールはおいしいし、散歩しがいのある街なのでした。


はみだし情報/
●12月22日〜24日、「押絵羽子板と特産品まつり」が駅東口で開催。押絵羽子板、桐たんす、桐箱、麦わら商品の販売が行われます。
●7月13日に近い土・日曜、「春日部夏まつり」が駅東口地域で開催。粕壁宿の祭礼を受け継ぐ祭りで、神輿が街を練り歩きます。

■参考資料/春日部観光ガイド、市内見て歩きルート(春日部市観光協会)、春日部市文化財マップ(春日部市教育委員会)、市観光・施設パンフレットほか

*09年11月にお散歩しました。お店などの内容、データは変更されることがあります。
 なお、各施設内の写真は許可を受けて撮影しています。

路地裏のさんぽにん 文・写真・地図/森田奈央

お天気のよい日には、いつもと違う駅に下車して、
街をぷらりと歩いてみましょうか。

路地を一本、ひょいと入っていくと、
知らなかった日常に出会えるかもしれませんよ。
森田奈央●路地から路地へ散歩するライター。ちなみに、散歩中によく出会うのは猫。どうも猫を呼ぶ体質らしい。著書に「ネコ路地へ行こう」(小学館文庫)がある。